- 水素生産に利用できる酵素には、ニトロゲナーゼとヒドロゲナーゼ(→参照)があり、私たちはニトロゲナーゼを利用
- 反応が不可逆的なので、酸素存在下でも水素を再吸収しないことが利点
- 理論的最高エネルギー変換効率はC4型光合成の約2/3
将来の海上生産を視野に、私たちは省力生産が可能なニトロゲナーゼ系を採用しました。N2があるときは、 窒素を固定すると同時に水素を副産物として生産し、その反応は次式のように表されます。
一般式 N2+8e-+8H++16ATP → H2+2NH3+16(ATP+Pi) (反応式1)
N2がないときは全ての電子が水素生産に利用されます
(例 Ar) 2e-+2H++4ATP
→ H2+4(ATP+Pi) (反応式2)
後者の場合(反応式2)、可視光(550mmの光)に対する理論的最大エネルギー効率は、13.9-16.3%と計算されます。 太陽光中の光合成に利用できる部分は可視光で、全体の約45%ですから、全太陽光に対する効率は約6.2-7.3%となります。 この効果は、イネ、コムギなどのC3型光合成では12.4%、トウモロコシ、サトウキビなどのC4型光合成では9.3-11%ですから、 水素生産の効率はC4型光合成の約2/3ということになります。
ヘテロシスト:酵素感受性ニトロゲナーゼと光合成の両立
ニトロゲナーゼは酸素感受性なので、酸素による失活から保護する仕組みが必要です。 窒素固定型シアノバクテリアは酸素発生型光合成とニトロゲナーゼの共存という難題を、さまざまなやり方で解決しています。 私たちが利用しているシアノバクテリアは、酸素を発生し光合成をやる栄養細胞と、 酸素を発生せず窒素固定を行うヘテロシスト(異型細胞)が空間的分業により窒素固定(水素生産)をやっています。 たとえて言えば、栄養細胞は原料製造所であり、ヘテロシストは加工所です。 (なお、昼は光合成、夜は窒素固定というように、時間的分業により対処しているもの、その他のタイプもあります)
【ヒドロゲナーゼが水素生産を妨害】
ヒドロゲナーゼは、ニトロゲナーゼによって生産された水素を再吸収し、水素生産の妨害となります。 そこで、遺伝子工学的方法によりヒドロゲナーゼ活性を除去すると、水素生産活性が著しく高まり、 酸素の存在下でも水素を蓄積することができます。