- 一般式 N2 + 8 e- + 8 H+ + 16 ATP → H2 + 2 NH3 + 16 (ADP + Pi) (反応式1)
- N2がない場合は(例Ar) 2e- + 2 H+ + 4 ATP → H2 + 4 (ADP + Pi) (反応式2)
電子(e⁻)は光合成によって合成された有機物に由来します。
反応にはATP(アデノシン三リン酸、生体の高エネルギー物質)を消費するので理論的エネルギー変換効率が低いのが欠点です。 しかし、反応が不可逆的に水素生産方向に向いているので、光合成によって生産される酸素の共存下でも水素の蓄積が可能である点が長所です。
詳しく見ると、ニトロゲナーゼ反応には2つの蛋白質の関与が必要で、 1つは反応を触媒する鉄-モリブデン-硫黄からなる金属クラスター(Fe-Mo補因子(FeMo-co)とも呼ばれる)を結合したジニトロゲナーで、 他方はATPを加水分解して還元型フェレドキシンから前者に電子を供給するジニトロゲナーゼレダクターゼと呼ばれる鉄-硫黄クラスターを持つ蛋白質です。 前者には、Mo(Mo型)の代わりにバナジウムを結合したV型、鉄を結合したFe-only型ものもあり、 後二者は反応式1にくらべて窒素存在下で水素生産により多くの電子が向けられるので、 水素生産にこちらのタイプのものを利用しようとする試みもあります。
シアノバクテリアのヒドロゲナーゼ
シアノバクテリアはニトロゲナーゼ反応によって生じる水素を回収するために、一般にヒドロゲナーゼという酵素を持っています。 水素の効率的生産のためには、ヒドロゲナーゼ活性を遺伝子工学的に抑制することが必要となります。
シアノバクテリアのヒドロゲナーゼには、 双方向性ヒドロゲナーゼ(bi-directional hydrogenase (Hox)、NADP+ + H2 → NADPH + H+)と 取り込み型(uptake hydrogenase(Hup)、シトクロムbが電子受容体となる H2 → 2e- + 2H+)の2種類があります。 窒素固定をやるほとんど全ての株は取り込み型を持ちますが、 双方向性を持つものはこれまでに調べられた株のおよそ2分の1だけです。
ヒドロゲナーゼを利用した水素生産 (付録)
シアノバクテリアを利用した水素生産の酵素として、ヒドロゲナーゼ(hydrogenase)を利用する方法もあります。 その利点は反応にATPを必要としないので理論的エネルギー変換効率が高いことです。 しかし、前述のように、反応が可逆的で、夜や曇天下では生産した水素を再吸収してしまうので、 これを防ぐための手段が必要となります。
このような欠点があるために、私たちは、ヒドロゲナーゼではなくニトロゲナーゼを水素生産に利用するという戦略を採用しています。