光合成水素生産研究所
研究構想(3)
太陽光エネルギー利用では経済性の確保が重要

太陽光の強度は地球平均で、1平方メートル当たり年間で1,500kWh(キロワット時)程度です。 将来、シアノバクテリアが、太陽光エネルギーを変換効率1.2%で水素に変換できた時のエネルギー総生産は、 1平方メートル当たり年間で18kWhです。 生産された混合気体から水素を精製し、圧縮し、 目的地の港へ運んだ時のエネルギー回収率を0.5(50%のエネルギーが上記過程で消費される)と仮定すると、 1平方メートル当たり年間で、9kWhの水素が正味のエネルギーとして生産できることになります。

水素のkWh当たりの売却価格を20,50,100円と仮定した時の1平方メートル当たりの年間の売り上げは、180円,450円,900円です。 10平方キロメートルの海域を使えば、年間の総売り上げはそれぞれ18億円、45億円、90億円となります。

エネルギー生産と総売り上げ
エネルギー生産 (kWh/m2/年) エネルギー売却価格と総売り上げの関係
変換効率 水素総生産 正味の水素生産(回収率50%) 20円/kWh 50円/kWh 100円/kWh
1.2% 18 180円 450円 900円 光合成水素生産
2% 30 15 300円 750円 1,500円
10% (150) 75(100%) 3,000円 9,000円 15,000円 太陽電池(参考) 
20% (300)  150(100%) 6,000円 18,000円 30,000円
10平方キロメートル当りの、エネルギー売却価格18億円〜90億円で、 水素生産がシステムとして成り立つように、シアノバクテリアの改良、 関連する工学分野をはじめとする研究開発を進めていく必要があります。 すなわち、この金額で、シアノバクテリアの培養、水素の収穫・精製、圧縮、運搬の経費、人件費、 船や装置の減価償却費、利子などのすべての経費をまかない、利益がでるようにしなければならないわけです。 光合成微生物による水素生産では、こうした経済性を念頭に、実用化に向け、 シアノバクテリアの改良をはじめとする研究開発を進めていく必要があります。

1−2%のエネルギー変換効率でも経済性確保の可能性がある(農産物の実績)

太陽光発電のエネルギー変換効率は10-20%が目標とされているのに対し、 光合成微細藻類を利用した効率の目標が1−2%というのは、低すぎると感じる向きもあるかと思います。 しかし、エネルギー変換効率が1-2%でも、経済性の確保は不可能ではありません。

たとえば、トウモロコシ光合成のエネルギー変換効率は植物全体で約1%、穀粒は0.3%程度と見積もられます。 最近10年間のトウモロコシの相場は1.9-7.73ドル/ブッシェル(シカゴ相場)で、エネルギーに換算すると、 これは7.6-30.9セント/kg、1.86-7.57セント/kWhに当たります。 つまり、約0.3%の変換効率でもkWh当たり10セント以下で生産ができていますが、このような経済的生産は、 品種改良、栽培技術改良、農機具の改良、社会基盤の整備等によって実現されたものです。

光合成微生物による水素エネルギー生産も、生物学的改良や関連諸分野の進歩、社会基盤の整備により、経済的生産が実験可能だと考えます。

シアノバクテリアにより生産される水素の価格は約25円/kWhと試算されます。

注:
日本の大部分は、太陽光のもっとも強い6月下旬が梅雨時になるため、 陸地の太陽光強度は1平方メートル当たり年間で約1,200kWh、 屋根の上に斜面をつけて設置した時の強度は1,400kW(約1,500kwh)程度です。 強度1,500kWhで、効率10、20%で発電できたときの獲得エネルギーは、それぞれ150、300kWhとなります。